アスリートサポート メディア掲載
取材記事
ジュニアサッカークリニック
サッカークリニックさんから取材を受けた内容が、2020年度版の「ジュニアサッカークリニック」に掲載されました。内容を一部抜粋して紹介させていただきます。
オフザピッチ講座
「体を大きくする食事の仕方」
栄養吸収を阻害する
原因ごとに対策がある
私は小学校の頃はあばら骨が浮き出て見えるほど痩せていました。他の子どもたちと同じように「たくさん食べて筋肉をつけよう」と努力していましがた、実際に筋肉が十分につき始めたのは高校生になり身長の伸びが止まってからでした。一般的には「成長が遅いタイプ」と結論づけられてしまいそうです。でもそうではなかったことが分かりました。
栄養について学ぶ上で、自分の体の中の栄養状態を血液検査などで調べてみたのです。すると、胃酸の分泌が標準の3分の1くらいしかない体質だったことが分かりました。胃酸が少なければ、たんぱく質消化する酵素のペプシンも少なくなります。つまり、筋肉をつけたくて大量のたんぱく質を一気に食べても、消化酵素が少なかったため、吸収し切れていなかったのです。だから痩せていたのだと説明が付きます。「食べても大きくなれない」と現在悩んでいる子供たちの中にも、私と同じようなケースが一定数いるはずです。
つまり、「たくさん食べる」「栄養バランスの良い食事をきちんと摂る」という理想的な取り組み方をしても、結果が出ない場合があるということです。そして解決策は「もっとたくさん食べる」ではなく、個々に原因を突き止めて、原因に応じた策を考える必要がある、ということになるのです。
図1を見てください。食べても大きくなれない場合に考えられる主な原因として6点あげました。説明していきましょう。
A.咀しゃく不足
①食後におなかがボコボコ、ごろごろする感じがする
②オナラが頻繁にでる
③軟便傾向がある
以上の自覚症状がある場合、消化不足の原因は、食べたののを口の中で小さくする作業(咀しゃく)が十分でないために吸収がうまくいっていないと考えられます。多くの人が経験していると思いますが、急いで食べたり、一度に多くの量を食べたりしたときに上記の症状が起きます。食べた量に対して、胃での消化力が追いつかなくなるわけです。
最近では学校の昼食時間が短くなっていることも遠因となっていると考えられます。私が住んでいる神奈川県横浜市のある中学校が昼食の時間を5分間伸ばしたところ、生徒の食事量が増え、体格が良くなったという保護者からの声が増えたことは注目すべきでしょう。
対策としては、食べるのに時間はかかりますが、しっかり噛んでから飲み込むことにつきます。米などでんぷん質のものは30秒くらい噛むと甘くなっていきます。甘さを感じたら細かくなった証拠なので、胃で吸収しやすくなってきます。「よく噛もう」と指導すると、半数くらいは1,2日でおなかの「ポコポコ」感がなくなり、おならが減って便がまとまるなど症状の改善が現れてきます。胃での吸収が良くなるわけですから、栄養も吸収され、体の中で必要とされる場所へ運ばれてカラダづくりにつながっていくはずです。
B.貧血によるエネルギー不足
④朝なかなか起きれず、食欲が出ない
⑤学校から帰宅後にだるさを感じる
小学校低学年のうちは学校から帰宅するとすぐにサッカーをしに飛び出していた子供が、5,6年生になって、突然、帰宅後に一休みしないと出かけられなくなったという話を聞くことがあります。そういったケースは、貧血が隠れていることが考えられます。
貧血では鉄分不足が原因ということは広く知られています。急に身長が伸びだした時期には、骨や筋肉を増やすために多くの鉄分が必要となるため、貧血が起こるのです。鉄欠乏性貧血と呼ばれる貧血で、集中力の低下、記憶力の低下、スタミナ不足につながるため、「頑張りたいのに頑張れない」状態になります。朝起きられなかったり、食べられなくなったり、帰宅後すぐに練習に出かけられなくなったりするのは「だらしがないから」ではなく、鉄分が足りていないからなのです。人の活動エネルギーを作るには、三大栄養素と同時に、鉄分とビタミンB群を摂る必要があります。
鉄不足についてはサプリメントを使うことも有効です。ただし、鉄をとって便が黒くなったら、それは鉄が吸収されずにそのまま排出されているサイン。胃がムカムカしたり、下痢になったりするのも同様です。鉄を体に入れたのに、たんぱく質が足りていないために、せっかくの鉄を吸収できないのです。貧血の時は鉄だけでなく、たんぱく質をとる量も増やすことを心がけてください。
C.ピロリ菌の感染
⑥軟便が続いている
ピロリ菌が胃がんの原因になることはよく知られています。胃の粘膜を食い荒らしていくため、栄養の吸収が阻害されます。軟便が続くような場合は、ピロリ菌感染を疑い、検査で確かめてください。感染している場合は抗生物質を1週間服用することで除菌できるとされています。
D.胃酸・消化酵素の分泌機能低下
冒頭で話して私のケースも含まれますが、特定の症状が現れにくいケースもあります。「食べているのに、大きくならない」という悩みが募るようなら、詳しい血液検査をうけてもいいかもしれません。このケースだと分かった場合は、サプリメントを利用して足りない消化酵素を利用して足りていない消化酵素を補うことができます。
E.肉体的・精神的疲労による吸収機能低下
F.自律神経の緊張
大事な試合で負けたあとや心配悩みがある時に食欲が出ないことも多くの人が経験しているでしょう。メンタルの状態と胃腸の働きが深く関係していることは明らかになっています。緊張しているときはどは交感神経が優位に働いているため、胃腸の働きが抑制されます。反対に副交感神経が優位になれば、胃腸の働きが活発になります。副交感神経を優位になるのはリラックスした状態です。すなわちメンタル的な理由で消化吸収が阻害されるのを回避するには、食事の場を楽しい雰囲気にすることが大切です。
鉄欠乏貧血の例にも挙げましたが、「食べたいのに食べられない」状態である場合、「しっかり食べなさい」と押し付けても食べれません。それなのに「食べなさい」と強制するのはメンタル的に追い込むばかりです。食べたとしても消化吸収に結びつかない可能性が高くなると考えられます。メンタル的に落ち込んでいて食べられないケースでは、いきなり完璧な栄養摂取を目指すのではなく、「ベストよりもベターを積み重ねる」を心掛けるようにしてみましょう。何も食べないよりは、何かお腹に入れるだけでいいのです。一口食べて状態が一歩改善したら、次はもう一歩目指すという具合に、少しずつ良くしていくようにできればと思います。